旅の終りとキムチフル・ワンダーランド
韓国キムチの旅。最終日11月21日。お昼ごはんを終えると、一行は列車に乗り込みました。駅前の伝統市場のそぞろ歩きが気持ち良かった、光州の過ごしやすい気候も、ソウルの駅に降り立つと、私たちは韓国を北上してきたんだな、と肌で感じられるほど風が冷たくなっていました。これは、大陸からの冬の訪れ?
11月24日。東京は朝から雪が降りました。初雪です。11月としては54年ぶりの観測だったとのこと。あのときソウルにいた寒気が東京まで追いかけてきたのでしょうか。
帰国して、ほんの1週間ほどしか経っていないのに、キムチにどっぷり浸かった韓国の3日間が懐かしく感じられます。時の経つのは早いけど、名人の伝統半ドンチミキムチは我が家の冷蔵庫で、まだまだゆっくりじっくり熟成中。世代を経て脈々と受け継がれているキムチは、急がない。焦らない。
キムチを漬ける。キムジャン。寒い冬が訪れると、韓国では野菜を漬けて冬越しさせる。キムジャン前線は、既にソウル(11月27日)から南下しつつあります。韓国では、今日もどこかで誰かがキムチを漬けている。光州のキムジャン予想は12月12日。その頃、我が家の名人キムチも食べ頃でしょうか。
【2016年 キムジャンをするのに適した日の予想 】WeatherI 社 提供
キムチで繋がる。
今回の旅では、aT 韓国農水産食品流通公社の皆さまをはじめ、株式会社 SG ツアー様と現地ガイドさん、運転手さん、カン・ジョンスク名人とご家族の方々、キムチフェスティバルとキムチ研究所の皆さま、多くの方々に大変お世話になりました。カムサハムニダ。
特に公社の皆さまには、出発前から、さらに帰国後も、大変お世話になりました。世界キムチ研究所の案内員の方にバッサリ縦割りにされた質問を繋いでくださったり、ブログ執筆にあたり知りたい情報を探してくださったり、丁寧かつ迅速な対応に心より感謝いたします。
初対面にしてキムチフルな3日間を共に過ごしてくださった20人のブロガーの皆さま。楽しかったです。ありがとうございました。キムチで繋がったご縁。不思議ですね。
最後になりましたが、拙い文章を読んでくださった皆さま、ありがとうございました。
韓国キムチのワンダフルな旅。これにてお開きといたしましょう。
ー完ー
【羅州のカン・ジョンスク名人とお嫁さん】
【アゴアシ枕】顎(あご)。韓国で買ったお菓子。
11月21日の帰国前、ソウル金浦空港のセブンイレブンで見つけたもの。
ピカチュウあんまん。1200ウォン。
11月18日からの10万個限定発売だったらしい。
手元に残ったウォンを使い切るため、コンビニ菓子を買うことが多いです。
真ん中、黄緑のお菓子は左から「シリアル」、「ポポロン」っぽいチョコレート菓子。
下に行きまして、黄色のが「きのこの山」っぽいの、「チュロス」。
このドラえもんチュロスは1本700ウォン。同行したお友達のおすすめで買ってみました。味は、八つ橋味というか、ニッキ(肉桂=シナモン)が効いてます。ドラえもんにしては大人向けかな。
左の箱に入ったお菓子は、空港ターミナルのパン屋さんで買った韓国伝統菓子セット(1万ウォン)です。このパン屋さん、韓国で全国展開するベーカリーチェーン「パリバゲット」と言います。パンもかなり美味しそう。光州にもありました。
「パリバゲット」のHPは 파리바게뜨
次回、韓国に行ったときは、「パリバゲット」のパンも食べてみたいなあ。
【おまけ】韓国では抹茶味のお菓子が流行っているようですよ。
世界キムチ研究所で韓国キムチを学ぶ
韓国キムチ文化体験の旅も終盤。最後のミッションは、世界キムチ研究所にてキムチを学ぶこと。
世界キムチ研究所・・? それは、世界キムチフェスティバルの会場でもある「光州キムチタウン」に、国の支援で2010年に開設された研究所。そう。韓国は官民挙げて、韓国料理のグローバル化を推進しているのです。
韓国政府が「韓国料理、世界5大料理化」元年を声高らかに宣言したのは2008年。その大きな国家プロジェクトの流れの中で、キムチの故郷・光州に、韓国キムチの粋、知見と技術、伝統と革新を集結させ、さらに高みを目指している、韓国が誇るキムチの最先端施設なのです。・・なんか、すごい気がしてきた。
World Institute of Kimchi。 略称は「WiKim」。
我々、キムチ文化体験ツアー一行は、会議室に通され講義を受けます。
テキストを渡され、PCの前に。あれ? いつの間にか私たち、韓国キムチ文化「広報団」になってるよ? ま。いっか。
講義は韓国語で進められ、質疑応答も交えながら、キムチの科学、キムチの文化を学びます。皆さん熱心にメモを取っていらっしゃいます。私も、ちょっとしたことを1点質問したのですが、「担当部署が違うのでわかりません」ということで、ばっさり縦割り。さすがキムチ研究所。白菜も縦割りにしますしね、キムチって。
しかし、キムチ研究にまい進している様子はよく伝わってきました。100人の職員が日々研究を重ね、キムチの機能を解明し、キムチ由来の乳酸菌を同定し、品質試験法を開発したり、はたまた、消費拡大に向けた商品開発をしたり、キムチに関するあらゆることが日夜繰り広げられているようです。韓国キムチエリート集団。すごそう。
講義の後は、施設内を案内してもらいました。
・・・・。誰もいない。撮影用に人がよけてくれたのではなくて、案内員の女性を除いて、人っ子一人いないのです。今日は月曜日。韓国の祝日でもないのに。10時すぎてるのに。なんで?
研究所棟を出ると、そこはキムチフェスティバル会場でもありました。・・よもや、職員総出で、フェスティバルの警備でもやっているのでは・・・? 我々、韓国キムチ文化「広報団」に会わずして、何を伝えてほしいのか?
分析機器も揃っていて、キムチに関する書籍も世界随一、施設も素晴らしい。
アトピーに効果がある乳酸菌や、抗肥満作用のある乳酸菌の同定など、機能性食品としてのキムチの根拠が解明され、健康に関心を持つ層にアピールしたり。家庭で漬けるより市販のキムチを買う若い人たちに向けて、DIYキムチ(キムジャンセット)を開発したり。キムチ研究所の熱い思いが伝わってきました。
で、研究所の職員が何をしていたのか? ですが。後日談として。
私たちが研究所を訪れたそのとき、新しい所長が着任した、とのことで、職員一同がん首揃えて新所長様をお迎えする大事な会議に出席していた、そうです。私たちに講義をしてくれた案内の女性も、あわや会議に、というところ、その女性だけは会議出席を阻止した、という経緯らしい。ま、どこの国でも、ありがちなこと、かもしれません。
ちょっと人間味が感じられるエピソードで、「キムチエリート」「キムチの科学」という固い印象が少し和らぎました。キムチを漬ける人も、キムチを食べる人も、キムチを科学する人も、みんな同じ人間だもの。無人の研究室だってあるさ。(みつを)
今回いろいろなお話を聞いてみて、韓国国産材料の品質管理、生きた乳酸菌の研究、国家挙げてのキムチ文化推進など、これだけの英知と予算と思いがこめられた韓国キムチが、国家の威信をかけて推し進めている韓国キムチ文化が、もっともっと世界に広がっていくと良いなあ、と思いました。
なんか、すごいんだもの、韓国キムチって。研究所では「韓国キムチ広報団」の一員として勉強しましたが、今は「韓国キムチ応援団」として、光州で学んだキムチ文化を、1人でも多くの人にお話ししたいと思っています。
何はともあれ、滋味あふれる美味しいキムチ。ますます好きになりました。
行きつけのスーパーにて韓国産キムチ。キムチ君マークが目印です。
世界キムチフェスティバルでキムチを漬ける
今回の旅でのメインイベントは3つ。
1.羅州のキムチ名人宅で半トンチミキムチ体験
2.光州世界キムチフェスティバルでの白菜キムチ&カクテキ漬け体験
3.キムチタウンの世界キムチ研究所でキムチの勉強
2つめのイベントは、光州世界キムチフェスティバル。1994年から開催されているキムチの祭典。毎年6万人以上の来場者があるそうで、キムジャン体験も人気とのこと。ワクワク。期待が高まります。「第23回光州世界キムチ祝祭」
我々が伺った日曜の午後も、多くの家族連れで賑わっていました。キムジャン体験は、韓国の皆さんにも大人気。予定の時刻より15分ほど押して始まりました。
体験ブースに移動して、まずは白菜キムチから。下ごしらえした白菜とヤンニョムがセットになった容器が配られます。ヤンニョムの薬味をよく混ぜて、白菜の葉っぱ1枚1枚丁寧に塗り込みます。
長テーブルにズラリ並んで、皆、真剣です。オレンジのお揃いのエプロンがちょっと楽しい。
次は大根キムチ。カクテキです。
既に名人から習ったこともあり、慣れた手つきで、あっという間にできちゃいました。ものの15分! メインイベントの1つだった割に、ちょっと拍子抜け。
・・・が、しかし。このキムチ。帰国して日本で食べてみたら、びっくりするほど美味しかったのです。まだ浅い味ではあったものの奥行きのある味で、塩辛さが先に来るけど深い。滋味じわじわ。
イベント会場では流れ作業的に「混ぜただけ」に近い状態だったのに、光州のキムチって、キムチというか、このヤンニョム。すごい実力! 光州の旨いもの全部が濃縮されているかのような、とても「混ぜただけ」とは思えない味に、ちょっと唸ってしまったのでした。これぞ韓国の味、でした。
韓国キムチ、すごい!
キャンペーン告知が入ったところで、せっかくなのでキムチフェスティバル会場を少し駆け足で回ってみましょう。
会場入り口で見つけたのは、キムチ冷蔵庫のブース。ほほーう。手前の背の低い冷蔵庫は、いかにもキムチ専用という感じですが、奥の普通っぽい冷蔵庫は中段の引き出しがキムチ専用なのか・・と見てみたところ、上段から下段まで、全部キムチが入るように小分けの収納ボックスが入っていました。そっか。年間用のキムチだったら冷蔵庫1台分にもなるよね。
メイン会場を見てみましょう。
メインステージでは、K-POPのライブや、キムチのオークション、トークショーなど、これでもか?とステージ企画が目白押し。プログラムによると「キムチ主婦歌合戦」的なステージも予定されていたようです。
それにしても、キムチでここまで盛り上がるなんて、韓国人のキムチ愛を感じました。日本に置き換えると、梅干しフェスティバル、みたいなものかしら。各家庭で漬ける。市販でも買える。食卓に欠かせない。お母さん、おばあちゃんから教わる。家庭の味があり、伝統があり、季節がある。国民食。ソウルフード。
物販ブースは、キムチ関連グッズや関係ないグッズ、なぜここで?というような日用雑貨(ペンチとか釘とか・・)まであり、大変に面白かったです。キムチの味見もできるし、おでんとかアイスクリームとか、食べ物屋さんも盛況でした。
買おうかどうしようか迷いに迷ったのが、このキムジャンマット。小さいサイズが1万ウォン。折りたたむとコンパクトだし、誰かのクリスマスプレゼントにも良いかな、と散々悩んだけど、結局買いませんでした。
くすりと笑ったのが、短冊。七夕とか神社仏閣関係なく、こちらの人は願い事を短冊にぶら下げるらしい。願い事ではないけど「〇〇〇好き」(個人、芸能人関係なく)ってのも多く下がってました。で、写真の白い短冊、キムチの神様にお願いしたことは、「お金持ちになれますように」。これ、万国共通でしょうね。
【アゴアシ枕】枕。光州で泊まったホテル
光州のお宿は、Holiday Inn Gwangju。外観がなかなか奇抜です。
ダブルルームのシングルユースでした。
枕は、硬めと柔らかめの2タイプ置いてあって、お好みの枕スタイルを選べます。
目の前に金大中コンベンションセンター、裏にはアパートが建ってるくらいで、とても静か。夜は真っ暗。ぐっすり眠れました。
バスタブなし、シャワーブース。ミネラルウォーター2本は無料サービス。
電源はマルチプラグが設置されていて、変換アダプターなしでもOKでした。
朝食もレベル高い。
フィットネスセンターと室内プールを利用しなかったことが心残りですが、満足度120%です。街の中心地からは離れているけど、地下鉄の駅も近く、コンビニも近くにあり便利。快適素敵ホテルでした。
キムチ名人にキムジャンの手ほどきを受ける その2
名人宅の庭にはキムジャンマットが3つ並べられています。私たちキムチ文化体験団20人は3グループに分かれ、秘伝のキムチを漬けていくのです。
カン・ジョンスク名人による説明。韓国語での熱のこもった講義。パワフルです。
教えていただくのは、名人が代々受け継いでおられる秘伝のキムチのひとつである「半トンチミキムチ」。トンチミ半分キムチ・・・?
一般的なトンチミとは、大根の水キムチ。唐辛子を使わない、赤くないキムチです。名人伝承の「半トンチミ」は、白菜をメインの材料に種々の野菜と果物を用い、エビの塩辛、イシモチ、牡蠣といった海産物のエキスたっぷりの秘伝の出汁に浸ける白菜キムチなのです。聞いただけで美味しそう。
半株に切った白菜に、ヤンニョム(薬念)を塗り込んで、出汁に漬ける。端的に言うと、たったこれだけの作業なのですが、白菜の下ごしらえだけでも結構大変そう。
私たちが体験するのは、まずはヤンニョム作り。白菜以外の野菜を千切りにしていきます。名人のご長男のお嫁さんもアシスタントとして指導してくださいます。ニンジン、玉ねぎ、リンゴや梨も千切りにします。そして、秘伝の出汁も見えますね。赤っぽく見えるのはエビの塩辛です。
では早速。私たちも作業開始。
千切り材料に、エビの塩辛、牡蠣、唐辛子粉とか、もろもろ投入。ヤンニョムが完成に近づいていきます。千切り部隊は次の作業に入りました。白菜と一緒に漬ける大根を薄切りに。白菜にヤンニョムを塗り込む前に全ての材料を切っておきます。
よく混ぜ合わせたヤンニョムを白菜の葉っぱ1枚1枚に塗り込んでいきます。
だんだんキムチらしくなってきました。愛情を込めて塗り込みます。全部に塗り込んだら紐で縛ります。さらにセリの葉で縛って、ひとまず完成。
それぞれ愛情たっぷりに育てた白菜に、秘伝の出汁を注いでもらいます。
本来は白菜ができた段階で3日ほど熟成させた後、出汁を注ぐとのことですが、我々に時間がなかったため、その場で出汁に漬けてもらいました。冷蔵庫で10日ほど熟成させたら、名人伝承の半トンチミキムチの出来上がり!
熟成を待ってる間、近所のスーパーで韓国産キムチを購入。キャンペーンやってるんですって。
キムチ名人にキムジャンの手ほどきを受ける その1
何がすごい?って、 韓国の食の都である全羅南道で、朝鮮時代の邸宅にて、そこに代々伝わるご宗家伝統キムチを、ご当主であられるキムチ名人の大先生から直々に習うのである。宗家、お家元、本家本元。歌舞伎でいうと、市川宗家。成田屋! 存在自体が神々しいのである。これは個人じゃ経験できなさそう。・・良かった、このツアーに参加できて。そもそも朝鮮時代の邸宅って、上流階級。両班(ヤンバン)ってやつじゃない。韓流ドラマは見たことないので良くわからないけど、私、両班って言ったら「両班海苔」ぐらいしか知らないし。
・・・なんてことを思いつつ、光州市内から栄山江(ヨンサンガン)沿いに南西方向に車で約30分。羅州(ナジュ)市にやってきました。
ここが名人の邸宅。ご家族で国の指定文化財に住んでいらっしゃるのです。
【重要民俗資料第263号 羅州南坡古宅】
朴炅重(パク・キョンジュン)家屋。この看板には153号と書いてあるのですが、元はこの地方の文化財153号として登録されていたものが、国の重要民俗資料に格上げされたということらしい。
朝鮮時代後期(1884年)に朴ジェギュが建設し、1910年代と1930年代に再建された。母屋を含めた7棟は、当時の家屋の特徴をほぼそのまま残していて、家具や工芸品など、昔の上流階級の暮らしぶりを今に伝えている。文化遺産として優れた歴史的・学術的価値が認められている、とのこと。
この時代、このエリアでこういう事件が起きています。ここに出てくる朴なんとかさんって、この邸宅の朴氏と繋がっているような資料も見つけたのですが・・。
長くなるので、四の五の言わず、おじゃましまーす。邸宅入口。
立派な門をくぐっても、母屋はまだ先です。
母屋。中庭ではキムチ作りの準備が始まっていました。
お部屋拝見。調度品が素敵。箪笥も年代物なんだろうなあ。
オンドル用のかまど
かまどの奥に見えたのは、こんな大きなカボチャ。
これはキムチ用の大根かな。
母屋に向かって左手に大きな井戸がありました。
水キムチを作って持って帰るための茶色の容器が大量に用意されていました。
母屋の右手から見る。この右手にも庭が続いています。
母屋向かって右奥の大きなイチョウの木。犬小屋の屋根が黄色の瓦ぶきに。
日本から20人の知らない人たちがやってきて困惑していた犬。
わいわい賑やかに、キムチ作りがいよいよ始まります。
(前段長すぎ)